⓪❸⑥|恋愛クリエイター

恋愛に悩む全ての方へ寄り添います。

すれちがうココロ -最終話-

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カフェを後にし駅へと急いだ。

目指すは当然、ユキの実家であるレストラン。

今夜もお店を手伝ってるはずだから。

さすがに、今夜はレストランで食事をする雰囲気じゃない。

とりあえず閉店まで、お店の前で待つことにした。

レストランの中を窓越しに覗いてみると、ユキが忙しそうにホール内を動きまわっていた。

外で待つのは、かなり寒い。

北風が差すように痛い。

風を避けるために建物の南側へ移動すると、そこにはテラス席があった。

冬の夜間はテラス席は使っていないらしくテーブルもイスも出ていない。

まぁ、もしあったとしても座って待つなんて出来ないから、無くて良かったかもしれない。

テラス席からは店内が全面見渡せる。

当然、店内からテラス席も全面見渡せる、ということに気付いた瞬間、ホールにいるユキと目があってしまった。

「やばーーい!」

これって、店内を覗き見るストーカーでしかない。ヤバイやつ。

さすがにココは不法侵入かもしれないので、出入り口付近に戻ると、そこにはユキの姿があった。

「今、外にストーカーがいるって110番しといたので。もうすぐお巡りさん来ると思うんで。」

と言った後、熱々のコーヒーを差し出してくれた。

「あと10時間で終わるんで、そこで、ずーーっと待っててもらえます?」

本気なのか?冗談なのか?全くわからないほどユキの顔が怖かった。

あんな怖い顔のユキを見たのは、出会ってから初めてかもしれない。

さっきまで熱々だったはずのコーヒーは、既に冷めてしまった。それだけ外は寒い。

けど、ユキのお父さんが淹れるコーヒーは香り高く、寒さで冷めてしまったことで、その美味しさを再確認できた気がした。

「10時間待って」とは言われたけど、一応閉店まであと2時間だ!

こういう時って、やたら時間が長く感じる。

もう10分は経過してるだろうとスマホで時間を確認すると、まだ 5分も経っていない。

楽しい時間は短く、退屈な時間は長く感じるのは何故なのだろう。

時間は誰にでも平等にあるのに、自分の中では不平等に感じるほど誤差が発生する。

人間の心理って不思議だ…

あぁー、ダメダメ、また自分本位で物事を捉えてるし。

そもそも自分が撒いた種なのに、面倒くさい感出しまくりじゃないか!

本当にダメなヤツだ自分!

そんな、誰の徳にもならない事を考えていると、スマホに着信があった。

カナからだった。

いつもはLINEなのに、なんか胸騒ぎがする…

電話に出ると、カナは泣いていた。

「どうした? 何かあったの?」

「……… 」

カナは泣いたまま、何も話さない。

「今、どこ?」

「リクのアパートの前… 」

「これから、そっち向かうから、そのまま待ってて。」

「うん。 」

急いで駅へ向かい電車へ飛び乗る。

夢中で走ってきたせいか息を切らしている。

電車の中で呼吸を整える。

電車を降り、急いで改札口を抜け駅を出ると、外は雨が降っていた。

さっきまでは降っていなかったのに。

夢中で走って自宅アパートに着くと…

降りしきる雨の中、傘もささずにカナは佇んでいた。

あの時と同じだった。

あの時の記憶が鮮明によみがえる。

「カナ?大丈夫?」

「風邪ひくから、中入って。」

自宅のカギを開け、びしょ濡れで小刻みに震えているカナを部屋へ上げる。

長い間、雨に打たれていたのだろうか、カナの長い髪の先からは水が滴っている。

とりあえずバスタオルを渡し、もう一枚のタオルで髪を拭いてあげた。

「こんなに濡れてたら絶対風邪ひくって!シャワー浴びて温まったほうがいいよ。とりあえず着替えは用意しとくし。」

「なんかごめんね。」

「謝るなっつーの。早く温まってきなよ。」

「コーヒーでいい?用意しとくけど。」

「ありがと。」

少しは会話ができるようだ。

僕も気づけばビショビショだった。

「カナ?一緒にシャワー浴びてもイイ?」

「絶対ダメでしょ(笑)」

冗談のつもりだったのに「絶対」までつけられて断られた。

「全力で拒否らないでくれる?(笑)」

「ちょっと大きいかもだけど、着替えココに置いとくから使って。」

「うん。ありがと。」

コーヒーを淹れながら、カナのことを考えている。

きっと、あの時と同じだ。タケルと何かあったのだろう。

でも、今日は聞かないことにする。

問い詰めるようなことはしたくない。

「シャワーありがと。おかげて命拾いした(笑)」

「じゃ、命の恩人ってことで(笑)」

「この服、デカくない?(笑)」

「先に言ったし(笑)」

カナから笑顔が戻ってきた。

カナの泣いてる姿は見たくないから。

「コーヒー、ココ置いとく」

「いろいろ、ごめん。」

「だーかーらー、謝るなっつーの!カナが言ったんだよね?謝る仲じゃないって。」

「でもね、やっぱり謝らなくちゃいけないんだ。それくらい私、酷いことしてるから。」

「は?何したの?」

「リクが、あの子に会いに行ってるのわかっててリクに電話したんだから… 本当に最低な女だよね。」

「確かに最低だな(笑)」

「あと少し待てば、ユキ…あっ、あの子のことね。ユキと会って話できたのにーって思ってたけど、カナからの電話でこっち来ちゃって。あー、もう会ってくれないだろうなぁ。カナのせいで。」

「……… 。」

「あっ、冗談だから。」

「本当に、ごめんなさい。」

「着替えがそれじゃ、"そのまま帰って" なんて言えないし。」

「カナの服、洗濯しちゃマズいかな?脱水もダメ?女子の服の扱いがわからないんだよなぁ。どうすればいいの?服?」

「私やるから、大丈夫。」

「じぁ、洗濯カゴの中に入れとくから、ココ置いとくよ。」

カナに渡したパーカーのサイズが、あまりにも大き過ぎたのか、両手を上げた指先は"萌え袖"をはるかに上回り、指先から袖が折れ曲っていて、なんか子供みたいで笑える。

「ふつーさ、男子の服着た女子は可愛く見えるはずなんだけど、カナは"お子ちゃま"だね(笑)」

「大人だし(笑)」

「実家じゃないけど、リクのウチに泊まるの小学生以来だよね。あの日のこと、覚えてる?」

「ウチにカナ泊まったことなんて、あったっけ?」

「あったの一度だけ。なんかワクワクしちゃって、リクと夜遅くまで話してて、リクのお母さんに "早く寝なさい" って怒られた記憶あるし(笑)」

「そんなこと、よく覚えてるよなぁ。」

「楽しかった記憶だからね。えー、なんかワクワクしてきた(笑)」

なぜ憶えていないのだろう。きっと僕も楽しい時間を過ごしていたはずなのに。

「カナ… 」

「ん?」

「タケルのこと、今でも好きなんでしょ?」

「どうして?」

「付き合い長いとさ、知りたくないこともわかっちゃったりするわけよ。女心ってやつはわからないけど、幼なじみのことは、一応わかってるつもりだから。」

「リクには、わかんないよ。」

「タケルと今、どんな状況にいるかまでは分からないけど。」

「あとさ、カナは嘘つくの下手くそだし。さっきの話も、かなり無理があるでしょ?強引に話を作った感アリアリだしね。」

「そう… かな。」

「寂しいなら、"寂しい" って言えばイイんだよ。ウチらは遠慮する仲じゃないんだし。」

「カナが、ひとりで悲しい時、寂しい時、誰かそばにいて欲しい時、とにかく素直に言ってくれれば飛んで行くってば。」

「私、リクに最低なことしたんだよ。自分の都合ってだけで、リクを呼び戻したんだから… やっぱり最低な女だよ。」

「まぁ、ふつーに考えたら最低かもなぁ。でもさ、変に気を引こうなんて考える必要ないし、逆にショックだわ!そんなの。」

カナがタケルのことを、あの時から変わらず好きだってことは、痛いほどわかっている。

あの雨の夜、あんなに泣いているカナを初めて見た時は衝撃的だった。

辛くて悲しい失恋だったと想像がつく。

それがまた繰り返されたのだから…

泣き崩れるカナを見る度に、抑え込んでいた感情が溢れ出る。

カナの気持ちを知れば知るほど、そばに居れば居るほど苦しくなる。

いっそ離れてしまえば楽になるのに。

それでも、カナが必要としてくれる存在でいてれるならば、寂しさを紛らわせる道具でも構わない。

僕は、あの雨の夜と変わらずカナのことを愛しているから。

こんなに近くにいるのに…

交わることのない気持ち…

小さなシングルベッドで二人は寄り添い

"幼なじみ" という境界線を超えた。

二人は寂しさを紛らわすために。

 

翌朝、目覚めるとカナはもういなかった。

「昨日は、ごめん。」

という短い置き手紙を残し、朝早く帰ったようだ。

何に対しての『ごめん』なのだろう。

そんなことばかり考えてしまう。


あれから1ヶ月が経過した。

カナとも、ユキとも、あれから一度も会ってはいない。

カナは大学でよく見かけるが、最近はタケルと一緒のことが多い。

きっと、上手くいっているのだと思う。

カナの想いが通じたのならそれでいい。

ユキは学校もバイトも休んでいる。

内緒でユキのレストランへ、暇さえあれば偵察に行っている。

二日に一回のペースだ。

偵察に行く度に、元気よくホールを行き来するユキを見ながらホッとしている自分がいた。

完全なるストーカーぶりを発揮している(笑)

最近、近所の人の目線がやけに気になるようになってきた。

ストーカーの気持ちって、こんな感じなのか。

こんな調子だから、彼女もできないし、親友もできないし、友達だっていない。

昔から何も変わってない自分が、なんか可笑しくて、今まで色々と悩んできた事が、急にバカバカしくなって、もう笑うしかない精神状態まで登り詰めたようだ。

でも、笑って過ごせるって意外と悪くない。

こんな状況でも、幸福感は高かったりしている。

普通で在りたいとか、周りと自分を比べたりとか、こうじゃなきゃダメとか……

今まで、そんな事ばかりに囚われて生きてきたんだなぁと。

『諦める』ってことを選択したことで、ココロの中のザワザワした感覚も無くなってきたようだ。

今は、ただただ元気なユキの姿をガラス越しに確認できればそれで良かった。

そんなことを考えていると、お店の中からユキのお母さんが、僕のほうへ向かってくる。

やばーー!!

知らない振りして逃げようかと思ったが、

「リクくーん!」

と、ユキのお母さんに呼び止められてしまった。

「はい!こんばんは!」

「たまたま通りかかったので、ちょっと… 」

「別にいいのよ嘘つかなくても。しょっちゅう来てるの知ってるから(笑)」

あれ?バレてたのか。ハズい。

「えっ!知ってたんですか?」

「だいぶ前からね。ユキも、とっくに気付いてるわよ(笑)」

「それより体調大丈夫ですか? しばらく、お店休んでいた様だったので… 」

「ちょっと体調崩してね。だけど、今は少しずつ良くなってきたので、お店でリハビリ中なんですよ(笑)」

「ユキに手伝ってもらって、リクくんにも迷惑かけてしまって、ごめんなさいね。」

「僕は何も… 」

「もうすぐ、ユキ仕事終わるので、今、お父さんに二人分のパスタ作ってもらってるから、中に入って食べてってね。今日は強制ですよ(笑)」

「ユキと何があったかは知らないけと、あの子、ああ見えて頑固なとこあるから、ちゃんと話してあげてね。ほら入って!」

「いらっしゃいま… リク先輩… 」

「久しぶり。」

「ほら、リクくん、あっち座って待ってて。」

「ありがとうございます。」

「リク先輩、今日は何しに来たんですか?」

「あ、うん… ちょっと… 」

「私に付きまとってるストーカーですよね?」

「あ、はい… そうかもしれない。」

「お店の中まで入ってこないでしょ、ふつーは。」

「マジ、キモいんですけど。」

「ごめん。帰る。」

「は?お父さんがパスタ作ってるので、絶対に食べてもらわないと困るんですけど。」

めっちゃ怖い。

2回もユキのことを裏切っているのだから当然だ。

「リクくん、お待たせ。」

「ユキ~、あなたのも作ったからリクくんと食べちゃって!」

気まず過ぎる。

まさか、ユキと並んでパスタを食べることになるなんて予想もしてなかった。

「全く気が進まないけど、お母さんが食べちゃってて言うから。」

「ユキ… ごめん。」

食欲はあるのに、パスタが喉を通らない。

「私、許しませんよ。」

「ウチのパスタ残したら(笑)」

「ユキ… あの夜、待ってるって言ってたのに約束破って… ごめん。」

「あの後、カナに会ってたんだ。」

「リク先輩の好きな人?」

「うん。」

「実は、カナに自分の想いがバレたっていうか、告白したっていうか… 」

「まぁ、カナはタケルのことで頭がいっぱいだから、自分の想いは届かなかったんだけど、色々と話せて良かったなと思ってる。ユキには迷惑かけっぱなしなんだけど… 」

「ちゃんと想いを伝えたんですねー。」

「成長したなー!リク先輩(笑)」

「ユキ先輩!あざす!(笑)」

「でもさ、まだ好きなんだよね、カナのこと。『諦めた!』って割り切ったはずなのに… ダメだよなぁ。」

「別にイイんじゃないんですか?好きでも。」

「それが今のリク先輩なんだし、正直な気持ちが聞けて、わたしは嬉しいですけどね。」

「リク先輩に好きな人がいても、付き合っている人がいても、それが私の気持ちに変化を及ぼすかは、わからないし… 」

「現に、嫌いになんてなれないし、今でも好きな気持ちは変わらないっていうか… 大好きだし… 」

人生の選択は時として非情だ。

世の中、たくさんの人がいて、たくさんの愛する夫婦やパートナーがいるのに…

ココには交わることのない二人がいて…

お互いの想いは同じだったりして…

ちょっと共感できたりして…

なんなのだろう、この気持ちは…

ココロのすれ違いから始まる…

友達?

親友になれるかな?

新たな恋、かも?

見えない未来は、人を成長へと導く。

悩んで、泣いて、悔やんで、悲しんで、最後は笑えればいい。

きっとユキも同じことを感じているはずだ。

この瞬間、
『もうユキをひとりにしない!』
と、決めた大切な記念日となった。


        ー 完 ー