⓪❸⑥|恋愛クリエイター

恋愛に悩む全ての方へ寄り添います。

すれちがうココロ -第3話-

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「あー、でも、お店、抜けられないんですよー。お母さんの体調まだ良くないし。」

「そうだよね。無理言ってゴメン。」

「お昼と夜はダメだけど、空いた時間帯なら…… ダメかなぁ。」

「あっ!ランチタイム終わったら映画観に行きましょうよー!観たいのあるんで。」

「バイト先の最寄駅前に映画館あったような気がするんだけど… 」

「駅前の映画館、私よく行ってますよ。じゃぁ、14時に駅前でいいですか? 映画の時間チェックしときますね。」

「私が観たいの観ますんで、強制です(笑)」

「じゃ、行くのやめとく。」

「えーー!?」

「嘘(笑)」

「よろしくお願いします(笑)」

「じゃ、明日。」

「気をつけて帰ってくださいねー!」

「ありがと。おやすみ。」

レストランから駅までの帰り道、ここ数日のモヤモヤから解放されたからか、冷たい風が、なぜか心地よく感じる。

電車の中は、相変わらずの混雑ぶりだ。

ポケットからイヤホンを取り出し、自分だけの世界へ現実逃避する。

 

翌日、午前中は大学に行き、14時の待ち合わせまで時間がないので、そのままバイト先のカフェで軽めのランチをすることにした。

カフェに入ると、カウンター席にはカナが座っていた。

「カナ?」

「あ、リク。お昼からバイトかなぁって思って。ちょっと寄ってみたんだ。」

「連絡くれればよかったのに。」

「大した用じゃないから、いなければ帰るつもりだったし。」

「そういえば、この前、あの食堂でさ… 」

「あのねリク、実はタケルくんと付き合うことになって… てゆうか、もう付き合ってるんだけど…… 」

「はー?」

突然すぎる告白に動揺しかない。

先日の食堂から薄々は気づいていたけど、やはり自分の中で消化しきれない状態が続いていることに嫌気がさす。

どうしても、カナのことが諦めきれない自分がいた。

「ちょっと待って!タケルって彼女いるんでしょ?」

「正確には、最近まで "いた" なんだけど… 」

「えっ?タケルって別れたの?」

「微妙なんだよね。それが… 」

「どういうこと?」

「タケルくんは別れたって言ってるけど、しょっちゅう元カノと会ってるの知ってるし… 」

「そういえばタケル、女子受けいいでしょ?でも悪い噂も結構あるみたいだし… 」

つい嘘をついてしまった。

僕が知るタケルはそんな悪いやつじゃない。誰にでも平等というと変だけど、分け隔てなく接する人間だ。

だからみんなから慕われる存在なのに。

それなのに、カナの前で嘘をついてしまった。

「そうなんだ… どうしよう。毎日この事で頭の中いっぱいで… まいってるんだよね。」

「タケルくんのこと、もちろん信じたいけど、ふたりでいる姿を見ちゃうと、やっぱり不安でさ…… もし二股だったとしても本人は "二股かけてる" なんて言うわけないし。あー、どーしよー。」

「そんなに心配なら、付き合わなきゃいいのに。」

きっと、これはNGワードだよなぁ。

あの雨の夜「チャンスがある」とか「断られても、メゲずにチャレンジしろ」とか言ってたのに、今じゃ「付き合わなきゃいいのに」とか平気で口にしてる。

「やっぱダメなのかなぁ。」

「少しカナの方から距離を置いてみたら?相手の反応を待ってみるとかさ。」

「そうだ、明日って金曜日だよね?夕飯、行くっしょ?いつものとこで作戦会議する?」

「あー、ごめん。明日もタケルくんと会う約束してるんだよね。リクには悪いんだけど、しばらく週末は会えないかなぁ。だって、これでリクと会ってたらタケルくんと状況同じだし、説得力なくない?だから無理。ごめんね。」

「別に幼なじみと、今まで通り夕飯食べてても問題なくない?てか、それでタケルと対等の立場なんだから文句の付けようがないでしょ?」

「それはそうなんだけど…… 」

なんか無意識に、カナのことを詰めてる。

僕は、部外者なのに…

終わりの見えない話に夢中になりすぎたのか、すでに約束の14時はとっくに過ぎていた。

あっ!ユキとの約束が!

「カナ、ごめん、また今度話そう。じゃぁ。」

と席を立ち振り返ると…

後ろには涙を堪えるユキの姿があった。

 

「ユキ… ごめん。」

無意識に謝っていた。

その「ごめん。」は、約束の時間に遅れたことなのか、カナと一緒にいたことなのか、どちらに対して謝っているのか自分でもわからなくなっている。

謝った瞬間、ユキの瞳からは涙がこぼれ落ちていた。

ユキは何も聞かず発せず、その場から走りさって行った。

「なにしてんの!追いかけないと!ほら、早く!!」

放心状態の僕の姿を見てか、事の重大さを知ってか、カナの強い口調で我に返る。

「あ、うん。」

ユキを追いかけカフェを出るが、辺りを見渡してもユキの姿は何処にもなかった。

ユキがいないことは承知で、昨日約束した駅前にある映画館へ走っていた。

時刻はすでに15時を過ぎている。

そこにユキの姿はない、当然だ。

約束の時間にカナと会っていたのだから。

しばらく映画館の前で待つことにした。

誰も来ないことは、わかっていたが待つことにした。

"もう会ってくれないかもしれない" と思うと胸が苦しくなる。

ここ数日、いつも隣にはユキがいて、毎日が充実していて、楽しくて、幸せだった。

でもそれは僕の独りよがりでしかない。

カナの存在を知りながらも、僕の隣にいるユキの気持ちを知ろうとも思わなかった。

本当に独りよがりでしかない。

そんなことを永遠と考えていたら、もう2時間もここにいる。

バイト先に戻ろうかと思った矢先、ユキが映画館から出てきた。

カフェから走り去った後、映画館に直行し、ひとりで映画を観ていたのだろうか。

「ユキ!待って!」

声をかけたが、振り向かず駅の中へ真っ直ぐ歩いて行ってしまった。

このまま話さずに別れては、絶対にダメだとわかっている。

改札口に向かうユキの左腕を掴む。

「ユキ、待ってってば!」

「話しを聞いて!」

「私は話すこと、ありませんけど。」

「それでも聞いて欲しいから。」

「今日は、僕から誘ったのに約束の時間に行けなくて、ゴメン。」

「カナと会ってたことも… 今は何を言っても言い訳にしかならないから… 本当にゴメン。」

謝ることしかできなかった。

「なんで、謝っちゃうの? なんで、ちゃんと言ってくれないの? 言い訳だと思われたとしても、ちゃんと言って欲しかったのに… もういいよ… 」

返す言葉が見つからない。

「リク先輩は、私のこと暇つぶしにしか見てないんだよ。きっと、どうでもいい存在なんだよ。」

「そんなこと思ってないよ。」

「もう話すこと無いんで。帰ります。」

引き止めることはできなかった。

何をやっても裏目に出る… いつもそうだ。

こんな自分が大嫌いだ。

胸糞悪くなるほど大嫌いだ。

 

仕方なくバイト先に戻ると、まだカナがいた。

「カナ?まだいたの?」

「なんか心配になっちゃって。」

「電話しようと思ったけど邪魔しちゃ悪いしね。で、どうだった? てゆーか、全く状況が見えないんだけど。」

「あぁ、そうだよね。」

「あの子、彼女なの?」

「大学の後輩なんだ。ここでも一緒にバイトしてる子。」

「へー、知らなかった。リクの側に、そんな子がいたとは、意外かも。」

「この前、告白されたんだけど、断っちゃって… 好きな人がいるからって。 」

「もしかして、私といたのがマズかった… よね?」

「最強にマズかったね。好きな人と一緒にいるとこ目の当たりにしてるんだから。」

「え?」

「ん?」

「あ゛ーーー!!」

つい、言ってしまった!

カナのこと好きだってことを…

本人の前で… これは事故… だよな。

「えっ?なんなの?好きな人って?私?」

「まぁそうなる… よね。なんかごめん。」

「謝んないでよ。リクが私のこと好きとか…ないでしょ。」

あーマズイよなぁ、これからどうすりゃいいんだよ。気まず過ぎるわー。

「今だから言っちゃうけど、私ね、中学の時、リクのこと好きだったんだよ。めちゃくちゃアピってたのに、全く気づいてないのか?わざとスルーしてるのか?全然わからなくて、告る前に冷めたよね。マジで。」

「えっ!そうだったの?」

「そうだよ、全然ダメ!リクは女ってもんを1ミリも理解してないし。」

「リクはさ、昔から人付き合い苦手でしょ?きっと身近にいる女の子って、私くらいしかいなかったでしょ?」

「ふつーさ、自分に好意を持ってる人って、告白されなくても 『この人、私のこと好きなんだろうなぁ』ってわかるんだよ。」

「中学生だって絶対にわかるはずなのに、リクは気づかなかったんでしょ?」

「あっ、でも私だって、リクの気持ち全然わかってないから、人のこと言えないか(笑)」

「でもね、今にも泣き出しそうな、あの子を前にした時のリク『この子のこと好きなんだろうなぁ』って、逆に嫉妬するくらいだったし。わかるんだって、私、そーゆーの敏感だから。」

「リクはね、鈍感というか恋愛に対して経験値が圧倒的に少ないんだよ。わかってる?自分の妄想の中だけで盛り上がってても意味ないし。」

事故のような告白から、ここまで分析されるとは思ってもみなかった。

カナが僕のことを好きだった時期があったなんて全くわからなかった。

遠い昔のことだけど。

「説教されながらフラれるとか、マジあり得ないんだけど。」

完全にフラれた。泣きたい。。

「恋愛に苦手意識があるなら、そばにいてくれる人を大切にしないとダメ。あの子のこと好きなんでしょ? 私、ほら、そーゆーの敏感だから。」

カナは僕がユキのことを好きだと思ってるのか?

いつもそばにいるのはカナなのに。

わかってないのはカナのほうだ!

「カナだってタケルと上手くいってないんでしょ?人の心配するより自分の心配したほうがいいんじゃないの?」

「今、その話するかねぇ。」

「そもそも、カナとタケルの話してたんだから当然でしょ?」

つい口調がキツくなりイライラしている自分がいた。

「だからダメなんだよ、リクは。」

ダメってなんなんだよ。

こっちはフラれてるのに。

「今だって自分のことしか考えてないんじゃないの?私のことは、どう思われても構わないけど、あの子の気持ちはどうなるの?」

「私が、あの子と同じ立場だったら、きっとリクが来てくれるの待ってると思うよ。あの子、確実に私たちのこと勘違いしてるはずだから。」

カナは、すべてお見通しなのか…

僕は、カナとの叶わぬ恋を癒すために、ユキの気持ちに甘えていたんだ。

本当に自分本位でしかないダメな男だ。

ユキの想いを裏切っているのは明白だった。

「自分の気持ち、正直に伝えないとダメなんじゃない?」

「うん。」

「ユキに会ってくる。」