⓪❸⑥|恋愛クリエイター

恋愛に悩む全ての方へ寄り添います。

すれちがうココロ -第2話-

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" コイワズライ " を聴きながら寒空の下、ユキとふたり目的地へ向かう。

「良くないですか?この曲。」

「うん。めっちゃ声好きかも。」

「あとで、スマホにダウンロードしちゃお。」

「えーと、感想はそれだけですか?」

「わかってないなぁ、リク先輩は… 」

「えっ?なにが?」

「なんでもないでーす。」

とても寒いはずなのに、なぜか寒くないような気がする。

今日はひとりじゃないからだ。隣にはユキがいてくれるから。

 

「ここでーす。」

駅から10分とは思えないほど閑静な住宅街にポツンとたたずむ小さなイタリアンレストラン。

「ただいま〜」

えっ?ただいま〜って?

「おかえり〜」

お、おかえり〜?!

「私の両親が経営してるレストランでーす!」

「ご両親?言ってたっけ?」

「言ってません(笑)」

まさかの展開に驚きを隠せない。

「いいから、こっちこっち!あの席座りましょ。」と、ユキに手を引かれ席へ向かう。

「お母さーん!ズワイガニのトマトクリームパスタふたつー!」

「絶対にオススメなんで強制です(笑)今日は私が奢りますから。実家だけど(笑)」

「ありがと。楽しみ!」

店内はほぼ満員。外の静けさからは想像がつかないくらい賑わっている。

「平日なのに、お客さんいっぱいだね。ご両親だけじゃ大変なんじゃないの?カフェでバイトしてる場合じゃない気がするけどなぁ。」

「私は、あのカフェでバイトしたいんです!余計な心配しないで下さい!」

なんか機嫌が悪そうな返事だな。

「そう言えば、昨日の食堂でタケル先輩、彼女らしき人と一緒でしたよね?  でも、いつも学校で一緒の人じゃなくないですか?」

「知らないよ。よく見てないし。」

なぜか嘘をついていた。

「だって、髪、ロングでしたよね? 学校で、いっつも一緒の人はショートだし。違ったかなぁ。でも、なんか雰囲気違うんだよなぁ。」

「もう、いいよ。タケルのことは。」

つい口調が強くなってしまう。

「ゴメンナサイ。」

ユキに謝らせてしまった。

彼女は何も悪くないのに。

「ごめん。ユキは何も悪くないから。」

厨房からユキを呼ぶ声がする。

「できたみたい。パスタ取ってきますね。」

出来立てのパスタを、ユキがテーブルまで運んでくれた。

"食べてないのに美味しい"とはこのことかってくらい美味しそうなパスタ。

「いただきまーす!」

ズワイガニとトマトの旨味、生クリームのコクが抜群のバランスで口の中に広がる。めちゃくちゃ美味しい!!!

「こんな美味しいパスタ初めてかも!お父さん天才なんじゃないの!」

「ホントですか!よかったー!内緒なんですけど実はですね、このパスタソース… レトルトなんです。」

「嘘だろーー!?」

「嘘(笑)」

「ちょーー(笑)」

ゆっくり味わいたいのに、美味しすぎてついつい頬張ってしまう。あっという間に食べ終えてしまった。

「ご馳走さま。マジで美味しかった!」

「お粗末さまでした。私、作ってないけど(笑)」

食後にコーヒーを飲みながら、尽きない話で盛り上がる。

こんなに楽しい時間を過ごすのは、今までの人生で数えるくらいしかないと思う。

帰り際にユキのご両親へ、ご挨拶とお礼を言ってレストランを後にする。

厨房からユキのお母さんが、忙しいにもかかわらず、見送りに来てくれた。

「ユキが男の子と一緒に、お店来るなんて初めてのことでビックリしてるんですよ。これからも、この子のこと、よろしくお願いしますね。よければ、またお店来てくださいね。今日はありがとう。」

とても素敵なお母さんだった。

 

レストランを出ると、外は更に冷え込んでいた。

「さむーい!」

と、発したと同時に、ユキがギュッと抱きついてくる。

「何?どうしたの?」

「寒いから、しばらくこのままでいいですか?」

「いいけど、そんなに温まらないでしょ?」

「リク先輩… 」

「ん?」

「大好き。」

「ちょっと、どうしたの?」

あまりにも唐突で、思考がシャットダウンしそうだ。

そもそも「大好き」って…

先輩として?
友達として?
まさかの告白?

たまたま大学が一緒で、バイトが一緒で、ユキの教育担当で、ご飯行く機会が多くて、ユキが初めて実家のお店に連れてきた男の子が僕だったってだけなのに。

ただ一緒に過ごす時間が他の人より、ちょっとだけ多いだけなのに。

僕は、幼なじみであるカナのことが好きなのに。

ユキは僕が好きな人を知らない。

あの食堂にカナがいたことも知らない。

好きな人に想いを伝えられない、ダメな男だということも知らないんだ。

ユキは僕のダウンに押し付けていた顔を上げると、

「リク先輩に好きな人がいることは知ってる。けどね、私の気持ちは変わらないから… 」

話した事ないのに… カナのことは…

「なんで?知ってるの?誰にも話したことないはずなのに… 」

「やっぱりいるんだ。好きな人… 」

「あっ… 」

「ちょっとー!そのリアクション素直過ぎやしませんか? まぁ、そんなところが好きなんですけどね(笑)」

ユキは告白する相手が、どんな状況であろうと自分の想いを伝えることができる子だった。

カナも少し前に、今のユキと同じ経験をしている。

タケルへ告白した後の辛い状況も、僕は目の当たりにしている。

それだけ告白という行為はエネルギーが必要なはずだ。

僕の状況も、カナやユキと同じなのに、カナへの想いを伝えることができていない。

この差は、いったい何なのだろうか?

僕は本当にカナのことが好きなのか?

それさえも疑いに変わっていく。

それと同時にユキへの興味が、自分の中で少しずつ増していることを感じていた。

移りゆく想い… なのか…

人の感情とは自分だけでは成り立たない。

少なからず周りに影響を受け、時には与えて揺さぶられているのだろう。

周りに臆することなく前を向いて進むユキの姿に、僕の感情が揺さぶられている。

ユキが今の想いを言葉にしてくれた。だから自分も、ちゃんとしないと。

「ユキに伝えなきゃいけないことがあるんだ。」

「僕の好きな人…なんだけど、ユキもたぶん知ってる人だと思う。あの食堂でタケルと一緒だった人… なんだよね。」

「そんな気がしてたんだよなぁー。」

「えっ?!それも?」

「だってリク先輩、トイレから戻ってきた時から、確実にあのテーブル席に気を取られてて、私の話、上の空で聞いてたもん。あの時点で、私は嫉妬した気分だったんですからねー。」

「でも、先輩の素直な気持ちを直接聞けて良かったです!」

「あーーもう、死んじゃいそうなくらいドキドキしたーー!!!」

"周りに臆することなく前へ進む" なんて簡単に解釈していた自分が情けなくなってきた。

ユキだって決死の覚悟で告白してたんだ。

それなのに…

「なんか、ゴメン。」

「別にイイんです。こうなることはわかっていたから… 」

「リク先輩、じぁーね。バイバイ… 」

 

この状況で、僕がユキを引き留める理由は何もなかった。

ユキの後ろ姿は、どことなく物悲しさが漂っていた。

どんなタイミングで誰を好きになるかなんて自分でもわからない。

ましてや自分を好きになってくれる誰かを、同じタイミングで好きになるなんて奇跡に近い気さえしてきた。

"人を好きになる気持ち" のリセットボタンがあったら、こんなにも複雑で辛い想いをしなくてもいいのに…

そんなことを考えながら帰りの電車に飛び乗る。

車内はバイト帰りと変わらず混雑していた。

スマホをポケットから取り出し、ユキがお気に入りの曲を聴く。モヤモヤした気分を少しでも変えるために。

次第に車内の雑踏から解放され、曲の世界観に飲み込まれていく。束の間の現実逃避。

明日、どんな顔をして会えばいいのだろう。

どんな言葉を掛ければいいのだろう。

あんな別れ方しなければよかったのに…  

今更、そんなことばかり考えている。

そう、心配の中心人物はいつも自分だ。

カナのことだって、ユキのことだって、相手の心配よりも先に自分の事を心配している。

自分が悪者になりたくないだけなんだ。

"いかに穏やかにやり過ごすか?" ばかり考えて生きてきた悪い癖なのかもしれない。

明日は普段通り… とはいかないかもだけど、ちゃんと正面向いてユキと接しようと決めた。

 

翌日、カフェに出勤すると、ユキはバイトを休んでいた。

店長には風邪で休むと連絡があったらしい。

それから3日間続けてバイトを休んでいる。

この3日間、ずーっとユキのことばかり考えている。

"心配" もそうなんだけど、それとは違う何かに支配されている感じ。

胸がザワザワする感じ。

バイトを終え、気づいたら自宅と逆方向の電車に乗っていた。

あのレストランに向かうためだ。

ユキと歩いた道を思い出しながら進むと、レストランの外で並んでいる人達が見える。

順番待ちをしながら中の様子を伺う。

先日と変わらず混み合っている店内。

厨房では、ユキのお父さんが調理に忙しそうだ。お母さんの姿は見当たらない。

普段いるはずのないウェイターがホールを行き来している。

溢れんばかりの笑顔でウェイターとして働くユキの姿を目の当たりにし、内心ホッとしている自分がいた。

「いらっしゃいませー!何名様で… 」

「久しぶり… じゃない…よね。元気そうで良かった。」

「 心配かけてゴメンナサイ。」

「あのパスタが夢にまで出てきちゃって… さすがに我慢できなかった(笑)」

「ありがとうございまーす!」

「こっちは後回しでいいから。他のお客さん優先して。」

「うん。ありがとー。」

いつものカフェで働いている時とは、ちょっと雰囲気が違う気がする。

家族と共に働ける環境が、更にユキの魅力を引き出しているようにも感じる。

彼女が楽しそうに接客している姿は、見ているこちらにまで幸せを運んできてくれる気がしてならない。

「ごめーん!お待たせしましたー!」

「お父さんが大盛りにしといたって(笑)」

「ちょー嬉しい!お礼言わなきゃね。ありがと。あっ、ユキ、後で話せないかな?」

「うん。もう少しで終わると思う。」

「食事終わったら、外で待ってるから。」

「うん。」

食事を終え外に出ると、店内の賑わいが嘘のように静かな街並みが広がっている。

等間隔に連なる街頭が綺麗だった。

「お待たせでーす!」

「お疲れさま。体調… 大丈夫そうだね。」

「実は、お母さんが体調悪くて休んでるの。そのヘルプでお店を手伝わなきゃいけなくて。本当にゴメンナサイ。」

「僕に謝る必要なんてないし、カフェでバイトしてる時より楽しそうに見えたけどなぁ。」

「ですよねー。ここで何年過ごしてると思ってるんですかー!目隠ししてでもウェイターできますからね!」

「それは無理だろー(笑)」

「はい、ムリです(笑)」

「そもそも、あのカフェでバイトしようと思ったの、リク先輩が働いてたからだし、一緒に働けるなら楽しいかなぁって思って。」

「そうなの?!」

「嘘、ムリ(笑)」

「コラ(笑)」

「でも、リク先輩目当てで入ったのは本当ですよ。バイトも楽しいけど、やっぱりこっち優先かなぁ。」

「そっか… ユキから直接聞けて、なんか安心した。この3日間、学校でもバイトでもウチ帰っても、ユキのことしか頭になくて… 心配とかもそうなんだけど、それとは違う感情もあって、何て言うか…… 会わなくちゃって…… 」

「それで、わざわざ来てくれたんですかー?嬉しーー!!」

「今日はパスタの夢見ちゃったから食べに来ただけだよって言ったよね?」

「はっ!私、もしかしてパスタに負けたんですか? いや、ズワイガニに負けたのか?」

「違う、違う!トマトクリームなっ!(笑)」

「面白くないんですけど(笑)」

「今日はパスタを口実にユキに会いに来た。ただそれだけ。」

話す内容なんて何も決めていなかった。

本当にユキに会いたいという気持ちに嘘はつけなかったから…

「リク先輩、この前は突然、変なこと言ってゴメンナサイ。あれは一旦忘れてもらって、今まで通り仲良くして… 」

「ユキ、明日休み取れない? 二人で遊びに行こうよ!」

「えっ?うん!行く!絶対!!!」