⓪❸⑥|恋愛クリエイター

恋愛に悩む全ての方へ寄り添います。

すれちがうココロ -第1話-

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僕には親友と呼べる友がいない。小学校の頃、友達に裏切られた経験が、今でも脳裏に焼き付いている。

ただ、具体的にどんな裏切り方をされたのかは思い出せない。本当に辛い経験をすると記憶がなくなるというけど、そんな感じ。

幼いころ、自転車に乗っていた時に、一時停止を無視したクルマに轢かれた経験がある。

数メートル飛ばされて右腕を骨折し、左目の上部がパックリ切れて流血していた。

その時の記憶は、ぶつかる直前で途絶え、運転手に「そのまま動かないで、今、救急車呼んだから」という呼びかけから記憶が再開していた。

やはり苦しい記憶は、脳が瞬間的に判断し機能を停止、または削除しているのだと実感した出来事だった。人間の内なる秘めたチカラは凄い!

そんな嫌な記憶があっても、同級生と仲良くなりたい気持ちは少なからずある。

けど、どうしても心を開く事ができないんだ。

だから、うわべだけの付き合いが続く。

親友ってなんなんだろう?

どうなれば親友って呼べる?

親友と友人の境界って何?

そんな事ばかり考えている時、決まって僕の隣には幼なじみのカナがいた。

「親友ねぇ、なんなんだろうね。」

とカナは言うが、彼女の周りにはいつも沢山の仲間が集っている。

きっと友達も親友も多いのだろう。

高校生活もあと僅か。志望していた大学への進学が決まった。幼なじみのカナは、なぜか第一志望を蹴り、僕と同じ大学への進学を決めた。

「大学いっしょだね。またリクと一緒に通えるよ。」

「そうだね。」

「はー?少しは喜んでよ。一緒の大学にしてあげたんだからぁ。」

「頼んでないし。」

「わかってないなぁリクは… 」

一応、第一志望をやめた理由を聞いてみたけど「仲の良い子が一緒だから」と説得力のない理由でかわされた。内心、余計に謎が深まり気になってしまう。

大学ではサークルに入るわけでもなく、学費や生活費を稼ぐ為、学校からほど近いカフェでのアルバイトに明け暮れる毎日を過ごしている。時間を切り売りする生活は正直うんざりだけど仕方がない。

「宝くじでも当たらないかなぁ」なんて夢も、そもそも買わないから実現するはずもない。こういうところは母親譲りかもしれない。

そんな僕を心配してかは分からないが、時々、カナは週末になると夕食の約束をしてくる。

その夕食会は、カナの自宅から近い食堂だった。

きっと、お金のない僕に合わせてくれているのだと思う。なんか申し訳ない気持ちになる。

幼なじみで同じ大学に通い、お互い自由であり、寂しくもある一人暮らし。

週末のこの時間だけは「現実逃避」という不思議な時間を過ごせている。

カナとの会話は不思議と恋愛の話はない。決まって小さい頃の昔話で盛り上がる。

毎回、かわり映えのない会話だけと、それもまた楽しかったりする。

月日の流れは生活に変化をもたらす。初めは楽しかった週末の食事会も、今となっては義務化しているような感覚に陥ることも多くなっていた。

大学生活は長いようで短い。楽しめる時に楽しんだほうがいい。そんなことばかり考えてしまう。

「カナは予定いっぱいあるんだから、無理して食事することないと思うんだけど。週末だし彼氏も困ってるんじゃないの?」

とカマをかけてみた。

「そっか、まぁ、お互い色々あるよね。じゃ、月一にしよっか。」

カナは話しをかわすのが上手い。

今夜は、カナとの約束の週末ではなかったが、いつもの食堂でひとり夕食を済ませ外に出ると、雨が降っていた。天気予報ハズれてるし。仕方なく雨に濡れながらダッシュで自宅に向かう。

自宅アパートに着くと、僕の部屋の前に誰かがいる。

降りしきる雨の中、傘もささずにカナは佇んでいた。

「どうした?」

「失恋… てやつかな… 笑っちゃうよね… 」

どうやら片想いの人にフラれたらしい。

カナに好きな人が居たなんて初耳だった。

「そっか、残念だったな。」

慰めになるような言葉も見つからない。

無難な言葉しか出て来なかった。

こんな時は幼なじみとして、どんな言葉をかければいいのだろう。

彼女は泣き崩れ、雨に濡れた体は小刻みに震え、我を失っているようにも見える。

相当ショックだったんだろう…

「自分の気持ち正直に伝えられたカナは偉い!頑張った!」

「まだ諦めきれないの?」

「うん。」

カナは頷いた。

人を愛する気持ちに区切りを付けるなんて簡単な事じゃない。

「もしかしたら、またチャンスあるかもしれないし、ほら、断られてもメゲずにチャレンジして付き合ってる人もいるって。」

「そう… だよね。」

泣き崩れていた彼女から、少しだけ笑みが浮かんだ。

そんなカナのことを、僕は愛している。

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カナが告白した相手は、僕も面識のある人物だった。

高校ではカナと同じクラス、今は同じ大学に通う同級生のタケルだった。

昔からクラスのまとめ役を買ってでるタイプで、女子からの人気も高い印象しかない。

断られた理由は「今、付き合っている人がいるから… 」だと、カナ本人から聞かされた。

第一志望を蹴ってまで、この大学を選んだ理由を、今更ながら理解し動揺している自分がいる。

自分は何を期待していたんだ?

恋愛に対し臆病なはずが、それでも微かな期待を抱き、その期待を頭の中で肥大化させ、現実を突きつけられて撃沈する。

何も行動せず、自分に都合の良い解釈をし自滅する。

いつもこんな感じだ。情けない。

 

あの雨の夜から1ヶ月が経ち、いつものように月一回の夕食を共にしていた。

カナの表情には笑顔が戻り、あの夜の出来事がまるでなかったかのようにも感じる。

「あれからどう?」

今日は触れないと決めていたのに、気づいたら言葉にしていた。

「うん。さすがに付き合ってる人がいるって言われたら諦めないとダメかなぁって考えちゃうよ。でも、やっぱり諦めつかないんだよね。」

1ヶ月経った今も、好きだという気持ちに揺らぎはないようだった。

「タケルのこと、いつから?」

「高校3年の夏休みかな。バイト先が一緒だったの。」

「タケルくんって学校では人気者でしょ。いっつも他の子たちに囲まれてて、あまり話すこともなかったんだけど、バイト先でよく話すようになって… 自然とね。」

「バイト中も普通に会話できるから、ストレートには言われないけど、付き合ってる人の存在はビシビシ感じてたんだよね。それなのにさ… バカだよ私。」

「そっか… なんか、わかる気がする。」

ついつい共感している自分がいる。

「えー!なにー?リク、好きな人いるの? 実は私だったりして(笑)」

「えっー!なんでわかったの!?」

と、試しに言ってみたけど…

「それ、つまんないから。」

と、軽くあしらわれた。

人の感情は時に非情で、正面にそびえ立つ壁が大きいほど、高いほど、分厚いほど、諦めることができなくなる。

その壁の前に、今、僕たちは立っているのかもしれない。

 

カフェでのバイト経験も、それなりに長くなると、新人アルバイトの指導を任されるようになる。

面倒だがお店の決まりだから断れない。

真面目に働く人もいれば、ダラダラ時間が過ぎるのを待つ人もいる。同じ時間で、同じ時給ならサボるヤツもいて当然だ。

ある日、同じ大学に通う1年後輩のユキという子が入ってきた。

僕は面識ないけど、同じ大学という親近感なのか、新人教育がこんなにも楽しいなんて想像もしていなかった。

楽しい理由は親近感だけじゃなく、いつも明るくふるまう彼女の性格の良さがそう思わせるのかもしれない。

最近は、大学でも顔を合わせるようになり、たまにランチする仲になった。

男友達はなかなかできないけと、どちらかというと女性のほうが話しやすく受け入れやすい。これもきっとカナの影響なのかもしれない。

いつも明るく一生懸命なユキは、研修内容をアッという間に習得し正スタッフに昇格した。

一応、教育担当だからというわけでもないが、お祝いに夕飯を奢る約束をした。

「よく行く食堂… なんだけど大丈夫? そこの "和牛たたきサラダ" が激ウマなのに激安でさ!あっ、別に激安だからココにした訳じゃないんだけど。」

「逆に好きです!」

「逆にって(笑)じゃ明日は?」

「OKでーす!」

金曜日以外の平日に、この食堂へ来るのは初めてだった。

やはり平日だからか空席が目立つ。

学校やバイトと共通の話題が多いからか、ユキとの食事は素直に楽しく感じる。

「リク先輩、もしかして、彼女さんとよく来るんですか?このお店。」

「彼女?いないってば。この食堂ね、建物古いし、なんか入りづらいんだけど、何食べても美味いから、週末にだけ夕食として使ってる感じかなぁ。」

「だーかーらー、誰と来てるんですか?(笑)」

「だから、ひとりだって!」

つい嘘をついた。

「ふつー、ひとりで学生が食堂で外食するかなぁ。」

「するでしょ。普通に(笑)」

「じゃあ、次来る時も誘ってくれます?割り勘でいいんで。」

「別にいいけど、マジで割り勘だよ。」

「じゃ、いつにします?」

「ちょっと待って、トイレ行ってくる。」

トイレは、僕たちが座っているカウンターの左奥にある。

席を立ち上がり、ふとテーブル席を見渡すと、面識のある人物が座っていた。

それは、タケルだった。

タケルの正面には女性が座っている。

後ろ姿だけど、それがカナだとすぐにわかった。