⓪❸⑥|恋愛クリエイター

恋愛に悩む全ての方へ寄り添います。

スキという魔力

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高校を卒業後、就職した会社の新人研修が終わり、共に過ごした同期ともここでお別れ。それぞれ各支店への配属先が決まった。

配属先の通知は3ヶ月間の研修最終日。土日を挟み3日後には、新しい支店で働くことになる。

僕の配属先は自宅から150kmも離れていた。しかも社宅も決まっているというから驚きしかない。

他の同期たちの配属先は、自宅から通える支店ばかりなのに… 

入社試験の面接で「どこでも大丈夫です!」って言っちゃったから仕方がない。

でもさ、3日前に言われても準備ができるわけないんだよなぁ。

この土日2日間で、突然勃発した一人暮らしへの準備や引っ越しなんて到底無理!なわけで、次の休日までの1週間は、地獄でしかない「片道3時間通勤」を決行することになった。

 

行きは5時半の始発電車で座れるけど、帰りは満員電車。当然、座って居眠りすることなんて出来なくて、常に1時間半は立ちっぱなし。

自宅に着くころには、22時近くなっているという地獄の1週間を乗り切り、次の土日で引っ越しと必要最低限の生活用品を揃え、やっと待望の一人暮らしが始まった。

 

会社から電車で20分のところにある社宅は、寮ではなく会社が社員用に一棟まるごと借りているアパート。新築だからキレイ!1Kだけどトイレと風呂が別!最高だ!

住人は当然ながら地方出身者ばかりが集まる。同じ会社でも勤務先がそれぞれ違うため交流はほぼ無いに等しい。わかりやすく言うと、普通に賃貸アパートを借りている感覚。

 

ちなみに職種はエンジニア。会社にいる時間は朝と夕方以降だけ。日中は機器の修理やメンテナンスでユーザー宅を駆けずり回っている。

 

僕が配属された支店には、仕事の中枢的役割を担うエンジニアが8割を占め、全員男性で 20〜40代と比較的若い。

事務とアドバイザー(ユーザーに対し機器の使い方をサポート)は全員女性で20〜30代。

男性に対し女性は2割なので、やはりまだまだ男性社会に変わりはない感じだ。

 

支店内の平均年齢が若いこともあって、みんな仲が良い感じ。会社内の雰囲気も良く感じる。

先輩も仕事では厳しいけどプライベートな時間はフレンドリーに接してくれる。

仕事が終われば、一人暮らしの僕を毎日のように夕飯に連れ出してくれた。今の時代、プライベートで会社の人と食事したり、飲みに行ったりは面倒くさいとか敬遠されるらしいけど、僕は毎日が楽しいと感じている。

 

実際の仕事にも慣れてきた頃、同期仲間で合コンの誘いも増えてきた。地元の同期の同級生ってパターンを繰り返すんだけど、トキメキなんて全然なくて、さすがに飽きてきている自分がいる。

 

その理由の一つに、同じ支店で働く5歳年上の先輩女性の存在があるからだ。

 

その先輩はアドバイザーという仕事柄か、明るくて、人を惹きつける魅力があって、常にみんなの人気者。

きっと僕より背が高いんじゃないかな。入ったばかりの僕にもフレンドリーに接してくれる。

 

そんな彼女の存在が気になっていた。

 

気になっている時点で恋愛対象になっているは必然で、だけど5歳年上の先輩、しかも性格良し、容姿端麗ともなると彼氏のひとりやふたりいてもおかしくない。

いやいや、こんなこと考えてる時点で彼女のこと好きなんだと思う。

自分の性格上、とにかく嫌われるのが怖い。だから、今までの人生で告白したことが一度もない。

嫌な奴って思われそうだけど、自分が告白しなくても良いように地固めするタイプ。相手に対して、ひたすら好き好きオーラを出す感じかな。

「好き」とか「好かれてる」とかってお互い言葉にしなくても、なんとなくわかるのが人間ってもの。いや動物たちもきっとそうだ。

「そんなのズルい!」とか「告白されたい!」って女性も多いだろうけど、僕は「気づいたら付き合ってた」ってパターンに意識して持ち込んでるタイプ。やはりズルいのかもしれない。

なので、彼女に対しても当然アピールしまくり。ただ彼女からすれば、僕は、単なる「年下の男の子」なんだよね。ここの攻略が過去に経験したことないだけに、とにかくムズい。

仲の良い先輩を含めた彼女との食事やカラオケ、休日にはテニスにも参加した。とにかく彼女との距離を縮める努力に抜かりはない。

いつものように会社の先輩たちと楽しい食事で盛り上がる。今日はついつい長居してしまい終電の時間が過ぎてしまった。僕の社宅に近い先輩は今日はいない。そこで彼女から「送ってあげるよ」とのひとことがあった。

 

「えーーー!」*ココロの中で絶叫。

 

他の先輩は、彼女が僕を送っていくことに対しなんの感情もないらしい。僕の心臓はバクバクなのに。

 

クルマだと僕の社宅まで所要時間は約20分。いや、深夜だから15分もかからないかもしれない。

あーーめっちゃ緊張してしまい、全く会話できないし、発した言葉は敬語(普段はタメ語で話してる)になってるし… 

結局、最強に貴重な二人だけの密室時間は、「今日はありがとうございました。お疲れ様でした。気をつけて帰って下さいね。」という定型文で終わりを迎えた。

 

その後も何の進展もないまま日常を過ごしている。けど、彼女と毎日会えるだけで幸せを感じていた自分がいる。

 

しばらくして、左手の人差し指に得体の知れないタコ?イボ?のようなものが出現。特に何か原因があったわけでもない。大して大きくないんだけど、やっぱり気になる。かと言って病院に行くのも面倒くさいから放置していた。

指が気になるのか、自然と患部を触るようになり、その仕草が気になったのかわからないけど、彼女から「指、どうしたの?」と聞かれ事情を説明すると…

 

「うちの実家の近くに、イボに効くって言われてる神社があるんだよ。私も小さい頃、そこの神社で拾った石で、なでなでしてたら治ったもん。」

 

「今度、連れてってあげるよ!ちょっと遠いけどね。」

 

「えーーー!!!」*ココロの中で絶叫。

 

「えっ、えっ?!マジで?!二人で長距離ドライブってやつ?!どうしよ、なに着てけばいい?もしかして泊まりとか?!」ココロの中で妄想してみたり。

 

そして当日の朝、彼女のクルマで神社へ向け出発。2時間弱の移動は変な緊張もなく、会話も途切れることもない楽しいひと時となった。

神社で石を頂き、ついでに実家に寄るという…

 

「えっ?えっ?!ちょっとー!聞いてないよー!」*ココロの中で絶叫。

 

まさかの彼女のご両親も含め、お昼ご飯を食べている僕。なんなんだこの状況は……(汗)

よくわからない緊張感で、お料理の味を堪能できないというか、味自体がわからなくなっている。

 

帰りのクルマの中で表向きは楽しいんだけと、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

僕はただの後輩なのに、彼女の貴重な休日を奪っただけではなく、クルマもガソリン代も、なにもかも彼女が負担している。

あー、本当にダメな奴だな僕は… 。

結局、社宅まで送ってもらいお礼を言って別れた。

 

先日の、お礼を兼ねて夕食に彼女を誘ってみた。初めて会社帰り、二人きりの食事。複数人での食事とは全く違う感覚、新鮮だった。

いつもは会社の話題ばかりだけど、今日は自分のことをいっぱい話した。代わり映えのない日常だけどいっぱい話した。

自分から誘っておいて、帰りは彼女のクルマで送ってもらう。相変わらずダメっぷり。

 

「たまには、ウチ寄ってく?コーヒーしかないけど」

 

無謀だとわかっていたけど誘ってみた。

 

「うん。今日は感謝されないといけない日だからね。」と彼女は言ってくれた。

 

狭いワンルームで尽きない話を楽しみ、結局、彼女は泊まっていった。

朝、彼女のクルマで会社へ向かうのだが、このなんとも言えない関係を会社の人に見られるのはマズいので、僕が途中でクルマを降り徒歩で出勤する。

何気なく出勤する素振りを見せながらも、内心はどことなくドキドキしている。

それから、二人きりで出かけることも増え、食事はもちろんの事、映画館、ショッピングなど、ちょっとした時間を一緒に過ごすようになった。

 

ただ、僕からは彼女を誘うことはない。

 

彼女が会いたい時に来てくれれば、僕は、それで満足だった。

 

僕の部屋も、彼女のお気に入りDVDやCDが増え、そのジャンルを好きになっている自分がいる。

 

僕のアパートは社宅。違う支店とはいえ同じ会社に勤める社員が住んでいるので、彼女がウチに来る時は、ちょっと離れた駐車場に停めている。

会社への行き来も、あの頃と変わらず途中で降りて徒歩で出勤している。

会社では、二人の関係は誰も知らない。それがまた、今までに味わったことのないスリルというか、なんとも表現しずらい快感に変わっていた。

 

そんな関係を1年続けたが、彼女から「もう会えないんだ」と告げられた。

 

それは当然のことなんだ。

 

だって、彼女には、3年付き合っている彼氏がいる。しかも同系列の社員さんで年齢は30歳。社内でも公認の仲だ。僕も面識があり何度も交流がある。

 

この状況を知った上で彼女を好きになったんだ。なんの後悔もない。

 

一般的に「浮気」というひと言で片付けられてしまうのだろうが、人間の恋愛とは、そんな簡単なものじゃない。

 

彼女の真意は全くわからないが、僕は彼女のことが好きでたまらなかった。

 

ただ会えるだけでいい。

 

彼氏と別れて欲しいとは思わなかった。

 

いや、思っていたのかもしれないけど、一言も強要しなかった。

 

自分でも、なぜかわからないけど…

 

とても幸せな一年だった。

 

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